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『深夜0時の司書見習い』の感想

SNSが好きな人なんているのでしょうか? ふと、そんなことを思うことがあります。もちろんユーザー数を見れば、多くの人が使っていることは確かです。——だけど、本当に、好きで使っているのかな? 人の悪意と無関心が跋扈するSNS。私は無責任な言葉の波に溺れそうになって、具合が悪くなってしまいました。みんなそんなことないのかな? 今、私はSNSをほとんど見ていません。

さて、今回紹介したいのは、『深夜0時の司書見習い』です。読書好きが小学生か中学生くらいの頃に一度は空想したことがありそうな図書館ファンタジー。ほのぼのした描写から一転、図書館の住人にSNSが牙をむいたとき、物語が怒涛の展開を見せます。

一見子供向けに見えますが、ファンタジー好きの大人やインターネットとの付き合い方に悩んでいる人におすすめです。もちろん、中学・高校の夏休みに読むと、主人公と同じ目線で楽しめると思います。

内容紹介

珠玉の”書物”たちが彩るビブリオファンタジー!
高校生の美原アンが夏休みにホームステイすることになったのは、札幌の校外に佇む私立図書館。通称「図書屋敷」。不愛想な館主・セージに告げられたルールを破り、アンは真夜中の図書館に迷い込んでしまう。そこは荒廃した裏の世界——”物語の幻影”が彷徨する「図書迷宮」だった!迷宮の司書を務めることになったアンは「図書館の本を多くの人間に読ませ、迷宮を復興する」よう命じられて……!?
美しい自然に囲まれた古屋敷で、自信のない少女の”物語”が色づき始める。(カバーより)

著者紹介

近江泉美
東京都在住。北海道の豊かな自然と道産子の人柄に惹かれて本作を執筆する。主な著作は『オーダーは探偵に』シリーズ、『雨ときどき編集者』など。(カバーより)

感想

(※重要なネタバレは書いていません。ただし、舞台設定に関するネタバレを多少含むため、前情報なしで読みたい方は、読後にまたお越しいただけると嬉しいです。)

父親のゴリ押しで、夏休みの2週間、北海道の私立図書館通称「図書屋敷」にホームステイすることになった高校生のアン。深夜0時になり猫にいざなわれたそこは、「図書屋敷」のパラレルワールド「図書迷宮」でした。「図書館」を舞台に、現実とパラレルワールドを行き来しながら大冒険するファンタジーです。

読後、最初につぶやいたのは、「タイトル詐欺だ(褒めている)」でした。

タイトルとカバーイラストから、私は、可愛いひよっこ司書さんが面白い本を選んでくれるほのぼの小説だと思って、軽い気持ちで読み始めました。事実、途中まではそのような雰囲気で進んでいきます。

表の「図書屋敷」に人が来なくなり本が読まれなくなったことで、裏の「図書迷宮」は荒廃しています。裏の図書迷宮を救うために必要なのは、表の図書屋敷の活気です。図書屋敷の本を人々に楽しく読んでもらうために、アン自身も本の楽しみを探っていきます。老婦人さゆりさんやパラレルワールド住人のもみじくんとの交流を経て、「本」の楽しさを体験していくアン。

紙の「本」が大好きな私は、ワクワクしながら、深夜0時の図書迷宮へアンと一緒に飛び込んで行きました。ちょっぴり不思議な世界で、アンの素敵な読書タイムに同伴できる。そんな物語を予想しながら……。

しかし、このパラレルワールドは甘い世界ではありませんでした。現実とパラレルワールドは繋がっていて、パラレルワールドでケガをすれば現実世界でもケガをしています。パラレルワールドで起こったことが現実にも影響することが、アンはもちろん、読者へも緊張感をもたらしています。

パラレルワールドの図書館「図書迷宮」は、ハチャメチャです。机は浮かぶし、亡霊のような存在もいるし、猫がしゃべる。しかも、そこは引き寄せの法則が残酷なほど正確に発動してしまう世界でした。不安を感じれば、想像した不安を呼び寄せてしまいケガをします。ネガティブな思考癖のある人にとって、ここはとても危険です。

不安や心配、よくない結果のイメージを振り切らなければ、図書迷宮を救えないどころか自分が危険なことになってしまう。

それでも、アンも私も図書迷宮の冒険をやめられません。

不安を断ち切り自分を信じる勇気を得る。考えてみれば、ファンタジーとは、ネガティブな思考癖から解放される物語なのかもしれませんね。

図書迷宮では冒険を、図書屋敷ではさゆりさんとの交流を深めていくアン。やがて、図書迷宮の最大の弱点「インターネット」との戦いが始まって、物語は全く別の表情を現してきます。

「図書館」という閉ざされた空間の中での冒険なのに、その冒険は壮大です。自信のない主人公が自信を得て世界を救い日常に帰還するというファンタジーの王道ストーリーに爽快感を得られるでしょう。

楽しく穏やかな読書小説かと思いきや、ハラハラドキドキの冒険ファンタジーであり、ミステリーの要素もあります。そして、「やっぱり紙の本だよね」と本への愛情を思い出させてくれる物語でした。

多くの悪意の中にキラリと光る善意を見つけたい

現実は図書迷宮と同じ。私が望むものを見せてくれる。不安になれば悪いものが大きく見え、元気なら良いものが大きく見えます。たくさんの情報の中から、言葉から、何を感じて、何を受け取るのか、それを判断するのは私なのです。きっと、世界は自分でコントロールできます。だったら、私は、多くの悪意よりも、少数の善意を見ながら生きていきたい。多くの悪意を無視できる強さを得たら、もっとSNSを楽しく使えるようになるのでしょうか?