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『下町九十九心縁帖(したまちつくもしんえんちょう)』の感想

カバーイラストのかわいらしさに、書店に行くたびに手に取っては「他に読みたいものもあるし…」と、戻していた『下町九十九心縁帖(したまちつくもしんえんちょう)』をついに購入した。他にも積んでる本はあるけど、「気軽に読める小説かな」と思って早速読み始めた。約330ページの長編。しかし、大きく3つの話が収録されていて、読みやすい。短編集ではなく続きモノだ。ただ、「気軽に読める」とは、少々違った。

『下町九十九心縁帖(したまちつくもしんえんちょう)』
佐々木薫
富士見L文庫

『下町九十九心縁帖(したまちつくもしんえんちょう)』ってどんな本?

内容紹介

大学生の春人には後悔していることがある。それは謝れないまま祖父が亡くなったこと。以来祖父が愛したような古い品物も、人と深く関わることも、苦手になった。

しかし事故で古伊万里の壺を割った直後から、動物の姿をした付喪神が見えるようになる。割れた壺の付喪神・イマリに迫られ、彼の力を取り戻すため、春人は付喪神たちの願いを叶えて「神心」を集めることに。元の持ち主に合いたい、一度だけでも人の役に立ちたい、亡き持ち主の娘から本当の思いを聞きたい。奮闘するうちに、願いが春人の周りに縁を紡ぎ——。(カバーより)

著者紹介

佐々木薫(ささきかおる)

「下町付喪神話譚」が、第5回富士見ノベル大賞で佳作を受賞。本作は受賞作を改題・改稿のうえ、上梓したものである。(カバーより)

『下町九十九心縁帖(したまちつくもしんえんちょう)』の読みどころ

ハートフルストーリーが好きな人におすすめ

富士見L文庫、娯楽に特化したエンタメ小説じゃないの?

付喪神が出てくるとあらすじにあったから、妖系の小説だと思い、油断してのほほんと読み始めてしまった。途中で「なんか、思ってたのと違う…」と気づいたけれど、何が違うのかハッキリしないまま読み進める。午前中に。

115ページをめくり、116ページ冒頭を読んだ瞬間、微妙にゆるんできていた涙腺が崩壊した。

あー、この小説、泣けるハートフルストーリーだ。

子犬みたいな付喪神とのドタバタコント小説でも、エンタメ全振りのファンタジーでもない。舞台設定に少しファンタジー要素があるだけで、物語は、人との縁、物との縁が描かれている。泣ける小説を午前中に読んではいけないと、マイルールで決めている。同じルールを持つ人には、夜のリラックスタイムに読むことをおすすめしたい。

付喪神・イマリの高飛車な性格と春人の遠慮深い性格が上手くかみ合っていて、バディ物としての楽しさもある。2章から登場する付喪神・チックが好き。

春人の成長ストーリー

おじいちゃんが大切にしていた骨董品の皿を割ってしまった。謝れないまま、おじいちゃんは亡くなってしまう。皿を割ってから見えるようになった漆黒の靄。ひきずりこまれるようで、怖い。同時に人と関わることにも臆病になってしまう。そんな春人がぶつかったのは、黒いベンツ…ではなく、骨董屋のおじいちゃん。ぶつかったとき、価値ある壺が割れてしまう。弁償としておじいちゃんが営む「古道具みやび堂」でアルバイトすることに。そこで出会う人や古道具の想いを通して、少しずつ、人と関われるようになっていく。

受け身体質な春人にズカズカと入り込んできた唯一の友人である秀樹の言葉が印象に残った。

「そもそも春人が、その子に対して、心を開いていないからさ。こっちのドアが閉まってる。相手のドアも閉まってる。こっちは立ち止まってる。相手も立ち止まってる。ゼロじゃん?」(299ページ)

人に深入りする勇気を得る。

物を大切にしたくなった

  • 1章:物に込めた人の想いに心が洗われる
  • 2章:物に宿る魂に心が震えた
  • 3章:未来を掴むための勇気・元気をもらった

特に、2章を読み終えたとき、縁あって私の元に来てくれた気高い道具たちを大切に使おうと思った。

付喪神は、長く使い続けられたものや持ち主の強い想いによって生まれるので、消耗品の類には基本的に生まれないのだから、私の家にあるような大量生産品には関係ないのだけど、なんとなく、モノ全部に付喪神が宿っているような、その付喪神が哀しい顔をしているような、そんな気がしてきた。

続編を待つ

実は、本題は「春人にかかった呪いを解くこと」。付喪神・イマリにとっては力を取り戻すこと。互いの利害が一致して、2人(?)は協力しながら「神心」を集めている。「神心」は、付喪神の願いを叶える交換条件にもらう。といっても、本作では2つしかもらえていない。1章ずつはスッキリと終わる短編の形を採っているので、一冊読み終わった後の満足度は十分だけど、よく考えると、ゴールはまだ遠い。本作は世界観を構築する役割の序章だと思う。つまり、続編、早くください。