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『木曜日にはココアを』『月曜日の抹茶カフェ』の感想

瑞々しい文章が魅力的な青山美智子のデビュー作『木曜日にはココアを』。そして、続編の『月曜日の抹茶カフェ』を紹介したい。



カフェ小説好きにストライク

「カフェ小説を読みたい人は、こんなのが読みたいんでしょ?」と言わんばかりのストライクな書きぶりに脱帽してしまった。

構成は、12編のショートストーリー集。1編1編はショートストーリーだけれど、全ての話しがつながっていて、最後に長編になるという構成が本書の特徴と言える。1話の脇役が2話の主役になるといった具合に主役のバトンが渡されていく。バトンを渡しながら、1ヶ月ずつ季節が巡る。

小説には、「奥行きがあるタイプ」「広がりがあるタイプ」「深みがあるタイプ」があると思うのだけれど、この小説は「広がりがあるタイプ」だ。

日本のカフェからスタートした主役のバトンは、海を越えてオーストラリアへ渡り、そして同じカフェに戻ってくる。

誰かの日常、すべてが主役

1つ1つの物語は、日常のことで、重いテーマはない。主人公たちの誰かが自分の日常に近いだろう。登場人物全員を主役にする!という気概を感じられるこの構成は、つまり「読者もみんなが人生の主人公なのだ」と伝えてくれているように感じる。

私は、『月曜日の抹茶カフェ』の「3.春先のツバメ(弥生・東京)」がとても好きだ。自営業の下着デザイナーがお客様との出会いで大切なものを思い出すストーリー。やわらかい心を思い出させてくれた。

木曜日→月曜日の順で2作品一気読みを強くおすすめしたい

『木曜日にはココアを』では脇役で終わった人物も、『月曜日の抹茶カフェ』で主人公になっているので、この2作品は続けて読むことをおすすめしたい。そして、一気読みを強くおすすめする。

私は、『木曜日にはココアを』の後、別の小説を読んでから『月曜日の抹茶カフェ』を読んでしまい、誰が誰だか分からなくなってしまった。登場人物がつながっていることを知らなかったから…。人物相関図が全員つながっているので、覚えているうちに一気に読むと、人のつながりの壮大さに没頭できると思う。

ただし、『木曜日にはココアを』は、デビュー作だけあって、少し粗が見え隠れしている。スピリチュアル表現が所々に出てきたり、人間関係というかバトンリレーが少々煩雑で、内面を描き切れていない。『月曜日の抹茶カフェ』では、スピリチュアル表現はなくなり、バトンがシンプルになり、内面が掘り下げられた。筆力が洗練されたことがよく分かる。

人と人のつながりに感謝を

私たちは、みんな、つながっている。知らない誰かとも、つながって、影響しあって生きている。そんな見知らぬ人の大切さが胸に染みる小説だと感じた。

1話が20ページ強くらいなので、隙間時間に読める。ライトな読み心地も魅力。深い話ではないから休憩時間に読んでも引きずらない。それでいて、言葉選びが巧みで、心が踊る。いい栄養を摂取できる本だと思う。



『お探し物は図書室まで』を読んだ感想

青山美智子の作品はもう読まないと思うので、ついでに『お探し物は図書室まで』の感想を添えておきたい。図書館司書モノは、作家本人の読書歴や文学への造詣がバレるため、よほど自信がない作家は書いてはいけない。『お探し物は図書室まで』では、文学作品がほぼ扱われていない。「逃げたな…」と感じた。逃げるくらいなら、こんなテーマで書かない方がいい。喫茶店モノでデビューした作家には、さほど教養はないけれど文章力があって上っ面だけきれいな文章を書くことが上手な作家が多いなと思う。