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『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『椿ノ恋文』の感想

小川糸のツバキ文具店シリーズ『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『椿ノ恋文』3作の感想を書きたい。

ツバキ文具店シリーズの概要

鎌倉で文具店の跡を継いだ雨宮鳩子。文房具を販売しつつ、代書の仕事も請け負っている。代書エピソードを縦糸に、鳩子の鎌倉暮らしを横糸に織り込まれていく物語。鳩子が代書した手書き文字が小説の一部になっていて、エピソードのオチの役目も果たしている。その手紙の内容は、コンパクトなのに必要なことはすべて込められ、説得力がある。上質な文章にヨダレが出そうだ。
装丁・活字・手書き文字・本の紙質のすべてが作品。だから、この本は、絶対に「単行本(ハードカバー)」で読むべきだ。文庫も実物を見たけど、紙質がめちゃくちゃ悪かったので、この作品の世界観が半減する。電子書籍は論外。この意味は、読めば分かる。

小川糸はどんな作家?

女性作家らしい美しく繊細な文章を得意とする作家。でも、その文章には棘が仕込まれている。単純な癒し系の作家ではない。少し胸がチクッと痛くて、ほろ苦くて、胸の奥から涙が湧き出すような感覚を味わいたい女性におすすめしたい。感動するのではなく、感情の奥の硬くなってる所を揺さぶられる感じ。個人的には、”癒し系小説の「いい子ちゃん」な文章に飽きて、でもあまり刺激は欲しくなく、癒し路線がいいけど変化球がほしいとき”にしっくりくるのが小川糸だと思っている。

シリーズ第一弾『ツバキ文具店』の感想



ツバキ文具店シリーズ第一弾『ツバキ文具店』。たぶん、本が好きな人、みんな好きでしょ? とにかく、本好きな人の「性癖」に刺さりまくる要素がこれでもかと詰め込まれている。

  • タイトルに「文具店」
  • 装丁の色・イラスト
  • 鎌倉
  • 手紙
  • 代書屋

全アイテムが本好きのハートにストライクだと思うのは、私だけではあるまい。

代書の依頼者や依頼内容に応じて、紙や筆記具、インク、文字、切手を変える仕事の丁寧さと、文章を書き上げるまでのスピード感。そのプロの仕事ぶりが心地よい。

『ツバキ文具店』で私が一番好きな手紙は、男爵の借金お断り状。柔らかく優しく美しい文字ばかりだと思って読んでいたところに、軽い衝撃だった。ただ美しいだけではなく、パンチがあるのが小川糸の良さなのである。あの無骨で有無を言わせない迫力ある文字と、愛のある断り文句は、お見事であった。

育ての親で既に亡くなっている祖母の本心を知るところが、本作のクライマックス。と同時に読者は「ええ、騙された!」と思わずつぶやいてしまうだろう。鳩子自身は、その事実にそれほど大きな反応をしない。薄々知っていたのかな?

鳩子は、「文字」で自分の軸を作っている人だ。私の軸は何だろう?

最後に、突然、恋の幕が開いたと同時に、第一弾『ツバキ文具店』は終わる。突然とはいっても、予想できる展開なので、唐突な終わり方がむしろ爽快だ。

シリーズ第二弾『キラキラ共和国』の感想



『ツバキ文具店』の続編『キラキラ共和国』では、恋愛期間をすっ飛ばし、いきなり入籍したところからのスタートである。恋を描かないのは、好感度が高い。この作品に、浮かれた恋は似合わないから。

余談だけど、娘のニックネーム「QPちゃん」について、作中でそのままの意味だと書かれていたので芸能人なのかと思い、検索してみた。キューピーちゃんの写真がズラッと並んだ。笑。そういうことね。

第二弾『キラキラ共和国』は、第一弾『ツバキ文具店』の振り返りは一切ない。そのため、順番に読むことをおすすめする。第一弾『ツバキ文具店』を読んでいないと意味不明な部分がたくさんあると思う。余計な説明がないから読みやすい。

ただ…、第一弾と比べて、代書のエピソードがかなり少なくなっていて、内容もキレがない。家族の話が軸になってしまった。正直、『ツバキ文具店』に感じたトキメキは得られなかった。

あと、「離婚したい妻と離婚したくない夫」のエピソードが回収されてない!どーなったのさ。

『キラキラ共和国』で好きな手紙は、ヤドカリさんのラブレター。私もヤドカリさんと似た特性で半ひきこもりだから、とてもやさしい表現に、ぐっときた。

第一弾よりクオリティが下がってしまったとは思うけれど…、まあたいてい続編は第一弾を超えられない運命なのだ。

シリーズ第三弾『椿ノ恋文』の感想



続編のクオリティが下がっている。不安な気持ちがありながらも、やっぱり『ツバキ文具店』のトキメキが忘れられず、サイン本を手に入れましたよ!

さて、その第三弾『椿ノ恋文』ですが、まず、紙のクオリティが下がりすぎ。ペラペラになっている!値上げしていいから紙のクオリティを守ってほしかった。この作品は、紙が大事だ!!!ページ数が多いからなのか、原価が上がったことの影響なのか…。ページ数はこれまでより多いので、嬉しいのですが。

さて、肝心の内容である。第二弾からだいぶ年数経って発売された第三弾。鳩子たちも同じだけ時間が経過していた。子供が2人生まれて、QPちゃんと夫を合わせて5人家族に。鳩子は子育てに忙しかったらしく、代書業を休業していた。子供が小学校に上がり、代書業を再開するところからスタートする。

代書屋を休んでたから小説もお休みだったのね、と納得感ある設定が良い。

ただ、全体的に、代書の内容は「家族モノ」が多くてつまらない。テンポは『キラキラ共和国』よりは良いものの、『ツバキ文具店』ほど軽快ではない。あと、不倫の空気がずーっと漂っている。女性作家特有の悪癖が出てる感じで、白けてしまった。加えて、「なんか良いこと書いてやろう」感が透けて見える。流行りモノの社会問題に手を出し過ぎた。ひとつに絞って深めればいいのに、いくつも混ぜることでただただ軽薄になってしまっている。

小川糸の限界を見た気がする。文章はいいんだけどね。思考力はそれほどなさそう(あるいは筆力不足)だから、深さが必要なテーマには手を出さない方がいいと思う。とてももったいない…。

とはいえ、情景描写は見事である。「鎌倉旅行したいな」「伊豆大島行ってみたいな」と思う。聖地巡礼している人はたくさんいるだろう。食べ物の描写も上手な作家だけど、旅行案内も上手いことが分かった。

ということで、『ツバキ文具店』は最高だけど、続編はやっぱり続編クオリティなので、おまけ程度に考えると良いかと思う。ドラマも映画も小説も、続編はこうなるものである。

それでも、やっぱり、文庫本ではなく単行本がいいと思うし、また続編が出たら迷わず買うと思う。『ツバキ文具店』と比較しなければ、『キラキラ共和国』も『椿ノ恋文』も、ふつうに好きなタイプの本ではある。